ボツリヌス症による野鳥の大量死について(短報)
野生動物保護委員会委員長 中津 賞(大阪府)
2004年9月4日に、兵庫県尼崎市東海岸町の産業廃棄物処理場(写真1)でカルガモ、カイツブリ、ダイサギが大量に死亡しているのを発見したと鳥類標識調査員から第一報が当院にあった。直ちに、現地入りし、呼吸困難、脱力、脱水を主症状の瀕死状態のカルガモ2、カイツブリ1、ダイサギ1個体を収容。現場で輸液開始液の皮下輸液と流動状態のニュートリカルあるいはフォミュラー3を胸部食道まで挿管して投与し、頸部を高くテープで保持した。病院到着時には、体はかなり乾いていたが、呼吸困難が激しいので、酸素マスクを終日装着した。その後の調査で、9月25日までに判明した死亡個体数はカルガモ43(写真2)、ダイサギ4、カイツブリ3、ヒドリガモ2、カワウ1であった。生存して当院に収容された個体はカルガモ6(写真3)、ダイサギ2、カイツブリ2で、このうちカルガモ3羽だけが救命できた。原因が不明のままであったが、重症筋無力症と酷似する臨床所見から、ボツリヌス症の疑いを示唆された。ボツリヌス菌の毒素は神経と筋肉の接合部での伝達を阻害して、麻痺を引き起こす疾患で、他の臓器にはいっさいの傷害を起こさない事が特徴である。当院に収容されたすべての鳥において、血液検査では、脱水による血液濃縮以外に異常は認められなかった。カモは本毒素に感受性が比較的低く、外国での救命率は75%以上で、人工呼吸の継続と脱水の補正、栄養剤の経口投与でかなり救命出来る疾患である事が判った。しかし外国の文献でもカモ以外の鳥は感受性が高く、救命努力は無駄に帰すると報告されている。大阪府立大学系の3名のボツリヌス学者の協力を得て、凍結カルガモ死体からC型毒素が検出され、今回の大量死は細菌学的にボツリヌス症と確定診断された。時を全く同じくして、東京の仙川でも本症が確認された。25℃以上の気温で本菌の増殖が加速される。来夏の再発生が懸念されるので、分離した本菌を使ってトキソイド、抗毒素血清の作製が上記研究機関で進められている。鳥の種類毎に菌を分離して、抗毒素血清を作製するとカモ以外の鳥の救命効果が期待出来るといわれており、当院で臨床効果を確認しようとする共同研究も進められている。今回の経験を通じて、臨床的な対応としては第一に持続的な呼吸管理が肝要である。気管チューブを挿管して、人工呼吸器に接続して、1〜2日間で、筋力が戻ってくるまで継続することが大切で、この間、脱水の補正と流動食の強制経口投与を実施する。脚から次第に上行性に重症筋無力症が進行することと、血液検査で低血糖、臓器障害を否定できることで本症を臨床的に診断できる。
2005年8月27日の年次学会(宇都宮)で、この尼崎市におけるボツリヌス症による野鳥の大量死について発表する予定です。
詳細はWeb: http://nakatsu.go.toの獣医学情報欄を参照ください。
野鳥のボツリヌス症の臨床的対応
カモ類をはじめ水辺の野鳥が夏季に多数死亡するときは本症を疑う必要がある。
クロストリジウム属の嫌気性菌のボツリヌス菌が産生する毒素による食中毒である。芽胞を形成して環境悪化に抵抗して土壌中に長く生存する。餌とともに摂取した土壌中のボツリヌス菌芽胞は通常は野鳥の消化管内で発芽することはないと言われている。芽胞を摂取した鳥が偶然他の原因で死亡すると、体内の酸素は消費し尽くされて嫌気状態になり、消化管内の芽胞は発芽して増殖する。25℃以上の気温で本菌の増殖が加速される。増殖した細菌は菌体外毒素を産生する。そして死体内に毒素が蓄積する。死体に発生したウジが腐肉と共に菌体外毒素を取り込む。ウジ5匹が鳥を殺せる毒素を持つと言われている。このウジを野鳥は好んで食べ、重症筋無力症と酷似するボツリヌス症を発症して呼吸困難、溺水、飢餓で死亡する。そして北米では百万羽におよぶ野鳥の死亡が再三報告されている。
ボツリヌス菌の毒素は神経と筋肉の接合部での伝達を阻害して、麻痺を引き起こす疾患で、他の臓器にはいっさいの傷害を起こさない事が特徴である。発見される本症の野鳥は、起立不能、全身の脱力、弱々しい開嘴呼吸が特徴で、容易に捕獲できる。餌の摂取不能からくる脱水が主症状で、血液検査所見は脱水による血液濃縮以外に血糖値も正常で、肝・腎機能異常は認められない。病理組織所見にも変化がないことが特徴である。臨床的な対応としては第一に持続的な呼吸管理が肝要である。気管チューブを挿管して、人工呼吸器に接続して、1〜2日間で、筋力が戻ってくるまで継続することが大切で、この間、脱水の補正と流動食の強制経口投与を実施する。脚から次第に上行性に重症筋無力症が進行することと、血液検査で低血糖、臓器障害を否定できることで本症を臨床的に診断できる。カモは本毒素に感受性が比較的低く、外国での救命率は75%以上である。しかし外国の文献でもカモ以外の鳥は感受性が高く、救命努力は無駄に帰すると報告されている。しかし少数発生の場合に、人工呼吸器への接続等の治療努力で呼吸管理が徹底されたなら回復の可能性は多いに有ると思われる。
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